日本に来たのは桜がちらほら咲き始めた頃だ。一週間余りが過ぎて、葉っぱが一面に出てきてすっかり葉桜になった。つぼみ、咲き始め、三分咲き、五分咲き、七分咲き、満開、散り始め、咲き終わり。やっと咲いたと思ったら、あわただしく散ってしまった。

 
 

「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし(古今53)」。世の中に全く桜がなかったら、春の心ものどかであろう。風にゆらゆら揺れているのを眺めていると、気持ちが沈んで落ち着かなくなる。民俗文化史の授業で、河田先生は「桜の花が散るのを惜しまない人は日本人ではない」とおっしゃった。今では花よりお酒だろう。どんちゃん騒ぎも悪くはないが、静かに桜をいとおしみたい。

 
 

「春雨のふるは涙か桜花ちるを惜しまぬ人しなければ(古今88)」。春雨が降るのは涙なのか。桜の花が散るのを惜しまない人はいないのだから。雨が降る時は心の乱れもひとしおだ。昨日、図書館の窓際の席で本を読んでいると、ぽつぽつと小雨が降り始めた。窓越しに濡れた桜を眺めながら、思わずため息をついた。

 


back